SFマガジン 2006年4月号

何にもしないまま1日を終えるのも気が引けるので、先週8割方書き終えたところで消してしまった感想に再度挑戦。F1の予選を見終わってから手をつけたんだけど、こんな時間になってしまった。
さて、3月号に続き、なかなか読み進まなかったこの本だけど、やっと読み終える。創刊600号記念特大号ということで、通常は250ページ程度の本が、なんと544ページもあり、内容が超充実。これもなかなか読み進まなかった原因となった。

S-Fマガジン 2006年 04月号

S-Fマガジン 2006年 04月号

では、簡単に紹介していこう。

天つ風 -博物館惑星・余話- / 菅 浩江

この作者の作品「永遠の森 博物館惑星」のその後を描いたもの。
「博物館惑星」の学芸員、美和子は50周年企画の一環として繭のような作品を制作するマウリツォ・ガルコに作品を依頼した。ところが彼は「博物館惑星」を訪れたものの、一向に作品を制作しようとしない。無意味な滞在によってかさむ経費について責められる美和子を救うため、夫であり、同じ学芸員である田代孝弘は滞在中のマウリツォを訪ねるが...
基となっている作品を読んでいないため背景を理解するのが大変だけど、物語自体はわかりやすく読んでいても面白い。ただ、苦悩する芸術家の心情は興味の持てる内容だけど、それを解き放つ方法は少々安直すぎる気もするけど...

カメリ、テレビに出る / 北野勇作

こちらは模造亀「カメリ」が活躍するシリーズもの。
ずっと昔、ヒトに作られたヒトデナシや模造亀、ヌートリアンが暮らす世界。今ではヒトはいなくなってしまい、テレビの中でしか見ることができない。そんな世界でカメリは石頭のマスターがヒトデナシを相手に始めたカフェで働いていた。ある朝、そのカフェに来るヒトデナシたちが楽しみにしているテレビに「しばらくお待ちください」の文字。カメリは店のためヒトデナシのためにケーブルをたどって、テレビ局を訪ねることに...
このシリーズ、SFマガジンでしか読んでませんが、何となく懐かしい世界で繰り広げられるカメリの活躍には、毎回楽しませられます。今回は中盤以降の展開に驚かせられました。

大風呂敷と蜘蛛の糸 / 野尻抱介

とある大学の学生食堂の掲示板に「めざすぞ宇宙!」の文字。内容は小型ロケットを使った弾道飛行実験のアイディア・コンテストだったのだが、工学部1年生の沙絵は、このコンテストに「凧によるアシストで宇宙に達する方法」を応募する。そして話はとんとん拍子に...
いやー面白い。好きですこういう物語や主人公、この現実感が何ともいえません。ホントにどっかの大学で実現してくれませんかねぇ...

<廃園の天使>クローゼット / 飛 浩隆

第26回日本SF大賞を受賞した「象られた力」という中篇集を読んで以来、何となく気になっている飛氏の作品。「廃園の天使」というシリーズの一篇。
そんなに遠くない未来、人は自らの脳に視床カードを増設し、物理的現実の上にいくつもの仮想現実を重ね合わせたり、「情報的似姿」を利用して仮想現実空間での経験をあたかも現実での出来事のようにフィードバックすることができるようになっている世界。そんな世界で、カイル・マクローリンは死んだ。自らの上に「死」の経験をを500回も上書きして...
この「廃園の天使」シリーズはかなりハードに偏っている内容なんだけど、作者の説明が適切でわかりやすく、読んでいて戸惑うことがないのはイイ。
今回の話はサスペンスタッチで書かれ、読んでいてどんどん引き込まれるのは良かったけど、エンディングはどうかな。まぁ、きっと続きもあるんだろうから、そちらに期待かな。

ひいらぎ飾ろう@クリスマス(deck.halls@boughs/holly) / コニー・ウィリス(Connie Willis)

そんなに遠くない未来、クリスマスの飾り付けや準備は業者に委託することが一般的になっていた。ある年の11月の終わり、クリスマス・プランナーであるリニー・チャンはまさに書き入れ時を忙しく過ごしていたが、6月という申込期限を大幅に超過した、新たなプランニングの依頼が入る。周囲の批判の中その依頼を受けたリニーは、多忙のため半狂乱の状態でミセス・シールズの自宅を訪ねるが...
最近は日本でもクリスマスシーズンに窓や庭に電飾の飾り付けをする家を見るようになったけど、これは本場アメリカの話。感覚としては、結婚披露宴のプランニングのようなもので、沢山のプランがあって、自分の趣味にあって、人とは違って、かつ、今までにやったことのないモノ...のような要望に応える主人公の話。物語の背景はかなりSFしてるけど、内容は恋愛モノかな。かなり甘甘です。初出は2001年。

1873年のテレビドラマ(Selenium Ghosts of the Eighteen Seventies) / R.A.ラファティ(R.A.Lafferty)

史実によれば、最初のテレビカメラは1884年、ドイツのパウエル・ニプコーによって発明されたことになっている。ところが、ラファティの言うところによると1873年には既にニューヨーク近辺でテレビ局による商業放送が為されていたというのだ。これはそのテレビ局が短い活動期に放送した全13話のドラマの記録である...
なんというか、最初まったくつかみ所がなかったんだけど、徐々に話が見えてきて、その異様な光景が浮かんでくるモノ。まぁ設定はSFだけど、内容はホラーかな。初出は1978年。

オールモスト・ホーム(Almost Home) / テリー・ビッスン(Terry Bisson)

トロイ少年はある日、町はずれにある古い競走場のスタンドに上り下を眺めていたら、あることに気がつく。フェンスの形がまるで旧式の飛行機<エアロプレーン>みたいだと。そこでトロイは友人のバグとチュトを誘い、エアロプレーンを飛ばそうとするのだが....
解説で本篇の訳者である中村融さんも書いているけど、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を彷彿とさせるファンタジー。子供の頃、まだ自分の世界が小さかった頃、そこから飛び出せば、きっと何かがあると思っていた。そしてきっと何でもできるのだと。そんな思いと共に避けられない死への哀切を感じさせる内容。初出は2003年。

グラス・フラワー(The Glass Flower) / ジョージ.R.R.マーティン(George.R.R.Martin)

その昔少女であったキュレイン。幾多の出会いと別れを重ね彼女は、クローン=デニにおいて「魂合わせ」を司るウィズダム<叡知>となり、再び少女の躰を手に入れた。そんなウィズダムを1千年前の伝説の人物、クレロノマスを名乗るサイボーグが訪れ、「魂合わせ」に挑戦したいと申し出る。「死」と「命」を得るために....
これ一篇で単行本にできそうな量の文章だけど、なんでもこの作者のサウザンド・ワールズ<一千年世界>というシリーズの一篇らしい。
内容は、舞台設定を抜きにすれば士郎正宗の「攻殻機動隊」を彷彿とさせる。主人公であるウィズダム草薙素子が実によく重なる。しかし、実際の舞台設定はもっと広大なモノで、実に大きな単位で時が流れている。そんな世界の辺境の惑星で「魂合わせ」なる儀式が行われ「攻殻機動隊」でいうゴーストの入れ替えが行われる。しかもゴーストは上書きされるので、強い者だけがその肉体を勝ち得るという、かなりリスキーな儀式だ。変身願望をくすぐるような淫靡な儀式と確かな世界観を持った内容が妙に気持ちいい一篇でした。初出は1986年。

プランク・ダイヴ(The Planck Dive) / グレッグ・イーガン(Greg Egan)

人がソフトウェア化され、仮想空間に暮らしている遠い未来。その住人の一部と観境のハードウェアを小型宇宙船に乗せ人類は宇宙に進出することに成功していた。そんな世界において地球から97光年離れたブラックホール「チャンドラセカール」では、これから驚異的な実験が行われようとしていた...
本書の中で、一番難解だった一篇。あまりにも難解なので、いつも半ページも読まないうちに睡魔に襲われてました。特殊相対性理論すらロクに理解できない僕にはいささか荷が重い内容でしたが、まぁ、言いたいことは理解したつもりです....