グリュフォンの卵 / マイケル・スワンウィック(Michael Swanwick)

今日は昨日とは異なりバタバタと対応するような状態ではなく、ひたすら相手の出方を待つ情勢。で、ただ待っていても暇なので、先週読み終わった本の紹介を少々...
ネビュラ賞ヒューゴー賞スタージョン記念賞などあらゆるSF文学関係の賞を受賞したりノミネートされたりすることで名高い、スワンウィックの1999年から2004年にかけての中短篇集。

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

グリュフォンの卵 (ハヤカワ文庫SF)

非常に多彩な形式、手法で書かれた10篇は、簡単に読めるものから非常に難解なものまで非常に充実した内容で、実に読み応えがあり、なかなか読む時間を捻出できなかったこともあるけど、読了まで1ヶ月近くを要してしまいました。さて、収録作を簡単に紹介しよう。

ギヌンガガップ(Ginungagap)

表題のギヌンガガップとは、北欧神話で描かれる二大世界の間にある真空又は混沌である深淵をさすらしいんだけど、この物語の中ではとあるブラックホールの名称。で、物語はこのブラックホールを利用した瞬間転送と異星人とのコンタクトを描いたもの。一度分解されて再構築されたものはオリジナルと一緒なのかという、今となっては古典的なテーマを実に魅力的に書いている。

クロウ(The Raggle Taggle Gypsy-O)

正直何度か読み返したけどイマイチ理解できない一篇。
クロウとアニーに逃避行なんだけど、シチュエーションが難しい。物語が進むにつれさらに難解になっていくし...
まぁ、何となく雰囲気を楽しんだ作品。

犬はワンワンと言った(The Dog Said Bow-Wow)

2002年のヒューゴー賞受賞作品で、サープラスという名の犬とダージャーという悪党が繰り広げる冒険活劇(?)的作品。何でもこれは後にサープラス&ダージャーというシリーズになるものの1作目。2本足で歩く合衆国から来た犬がロンドンでダージャーと共に一山当てるという何ともいえない物語だけど、どことなくアンティークな世界で繰り広げられる物語は実にユーモラスで、楽しい。

グリュフォンの卵(Griffin's Egg)

月に人間が進出した時代の話で、世界大戦が勃発し地球は壊滅してしまう。月にある都市でも生物兵器テロにより、4000人が発狂、助かったのはたまたま宇宙服を着用していた100人足らずの人間だけだった...
収録作品の中では一番長い作品で、内容もわかりやすく面白い。月での生活の描写や国ごとの力関係などの設定が実にリアル。発想的に面白いなぁと思ったのは、正常な100人が発狂した4000人を見捨てずに、いかにして助けようとするかという姿勢。人間ってホントにここまで寛容になれるかなぁ...

世界の縁にて(The Edge of the World)

1990年スタージョン記念賞受賞作。
核戦争の影が色濃く、世界の縁がある世界。ある日ドナとピギーとラスは、世界の縁にあった階段を下りていくことに...
「クロウ」ほど難解ではないけど、世界観に慣れるまでに多少時間がかかる作品。世界の終末の臭いがプンプンする中、結末は結構切ない。

スロー・ライフ(Slow Life)

2003年ヒューゴー賞受賞作。
木星の衛星タイタンでの話。濃密な大気の中で1年がかりでの調査を始めたリジィ・オブライエンは致命的な事故に遭い、回収が絶望となってしまう。そんな絶望的な状況の中、意識を失ったときにだけ聞こえる声があった....
「グリュフォンの卵」と同じくらいリアルなサイエンス・フィクション。この人のこの手の物語は大好きだなぁ...

ウォールデン・スリー(Walden Three)

軌道上のコロニー「ウォールデン」を訪れたモード・バタルールは、シルフに連れられとある道化の公演を見ることに。しかしそこに集う「ウォールデン人」は、道化の演技を見ながら、皆同じタイミングで楽しそうに笑うのだった...
地上とは異なる環境において、効率よく民衆を統制するためにその精神を誘導する装置を組み込んだ世界における、非常に切ない物語。僕にとっては今ひとつ読みにくかったけど、内容は良かった。

ティラノサウルススケルツォ(Scherzo with Tyrannosaur)

2000年ヒューゴー賞受賞作。
タイムトラベルが可能となっている世界。人々は恐竜研究を行うために過去に遡っていた...
タイムトラベルもので必ず問題となるタイム・パラドックスを積極的に利用して物語とした作品で、まるで推理小説のような展開とラストにはニヤリとさせられてしまった。

死者の声(The Very Pulse of the Machine)

1999年ヒューゴー賞受賞作
こちらは、木星の衛星イオを舞台にしたお話。調査中の事故で同僚が死んでしまい、着陸船まで同僚の死体を引きずることとなったマーサ。極度の緊張からか、それとも気が触れてしまったからか、死んでいるはずの同僚から無線が入る...
シチュエーションの違いを除けば「スロー・ライフ」によく似た作品。ラストにマーサが問いかける疑念や疑問が実に印象的だった。

時の軍勢(Legions in Time)

2004年ヒューゴー賞受賞作。
エリーことエレノア・ヴォイトは奇妙な仕事をしていた。一日中空っぽの物置のドアを監視する仕事だ。そのドアに異常があったときには、机の上にあるボタンを押すことになっている。ある日、エリーは好奇心に負け、開けることを禁止されているそのドアを開けてしまう...
この本の作品群の中で、唯一事前に読んだ覚えがあった一篇。たぶんSFマガジンに掲載されていたと思う。物語の序盤はコミカルなモノを想像してしまうんだけど、実はかなり壮大な規模でのタイム・トラベルもの。あまりにも広がりすぎのような気もしないではないけど、そこがまた面白い作品。