アイの物語 / 山本 弘

通勤時間が長くなったことの利点は、本を読む時間が出来たこと。先週末にアマゾンから送られてきた本を帰りの電車で読み終える。

アイの物語

アイの物語

この本は著者が個別に書いた5篇の中短篇に書き下ろしの2篇と全体を貫くインターミッションを加え完成されている。収録されている中短篇がそもそもこのようにまとめられることを意図して書かれたモノなのかどうかはわからないけど、実にしっくりとひとつの大きなテーマを作り上げているのが面白い。
物語は人類が最も繁栄した21世紀から数世代後の時代を舞台として始まる。地球上は高度に発達したAIによって自我を得たアンドロイドによって支配されヒトの勢力は微々たるものなっていた。ある日、「語り部」と呼ばれる少年は美しいアンドロイドに遭遇する。アイビスと名乗るアンドロイドは、アンドロイドを人類の敵とする「語り部」に対し、物語を聞いて欲しいと願う。「語り部」はアンドロイドとの小競り合いによって負った傷が癒えるまでの間、物語がすべてフィクションであることを条件にアイビスの語る物語を聞き始める...
「と学会」の会長なので、名前は「トンデモ」関係の本で知っていたけど、この「山本 弘」氏の著書を読むのは初めて。だからどんな感じの小説を書くのかは全く知らないで本書を手にした。
一貫したバックストーリーがあるとはいえ、中短篇ものなので読みやすくとっつきはイイ。最初は多少内容が幼稚に感じられ、対象が中高生なのかなと思ったりもしたんだけど、読み進むにつれテーマも描写も深くなったように感じるのが面白かった。全体として文体も読みやすいし、インターミッションによる「つなぎ」が絶妙なので、どんどん引き込まれていく。しかし、最後の一篇は疑問。物語の展開としては悪くないんだけど、描写に著者の世界観がモロに出過ぎていて独りよがり感が拭えない感じ。そこまでのまとめが非常に巧いだけに残念な気がしました。でもまぁ、それを差し引いても面白く、読んで損はない本でした。